湖底で悪さする海藻を 有効利用 私は長年、 海底や藻の研究を続けてきました。今は株式会社・海藻研究所の所長をしています。海に潜って海の森(藻場)の再生のための調査研究や未利用海藻の商品化などを 通じて、経済的にも循環する里海再生に取り組んでいます。 海藻肥料を普及するようになったのは、中海(島根県)の海藻駆除 きっかけでした。湖底に大量に堆積した海藻は、低酸素状態で白色硫黄細菌に分解される過程で猛毒の硫化水素を発生します。そうした海藻を取り除き、水質をよくしてアサリなどを増やすための活動です。 地元のNP0法人や漁業者とともに、取り除いた海藻の有効利用を考え、肥料化する取り組みも始め、現在は「ミネラル海藻」という商品名で販売されています。 私はこのような活動とは別に、岸に打ち上げられた海藻を拾い、地にまくことも指導しています。 味を持った農家にはサンプルを渡したり、要望があれば乾燥させたホンダワラ類などの海藻を提供しています。 海藻は上から置くだけ 海藻は一九五〇年代まで日本各地で肥料として使われ、売買もされていました。しかし、化学肥料の普及 によって一九六〇年代には海藻を肥料にする人はほとんどいなくなりました。一方、長崎県の対馬や五島列島、大分県の姫島、山口県東部などの一部の地域では、今でも比較的高い割合で海藻が肥料として使われ続けています。 海藻の伝統的使用法は、発酵させたりすき込んだりせず、農地にそのまま上から置くだけです。手間がかからないという作業面での理由だけでなく、海藻は分解が早く微生物が劇的に殖えるので、すき込むとかえって土壌中が酸欠などになり、 傷みが起きるなどの経験則もあるようです。 農地と農作物の種類によっては、海藻以外、肥料は無施用でも栽培が可能なものもあります。 海藻を肥料として使うことを勧めると、多くの農家や家庭菜園者から「塩害があるのでは?」と質問されます。海藻は塩分による脱水から身を守るため、カリウムなどさまざまなミネラルを吸収しています。 海藻体内のナトリウム濃度は低く、表面に付着する塩分もわずかですので、理論上では海藻をいくら入れても塩害が出ることはありません。 ただし、前述したように、 農地に大量にすき込んだり、肥料分を多く入れた圃場で海藻を使った場合は、土壌中で酸欠などが起きやすくなります。 海水もミネラルは豊富ですが、藻はそれに比べると、塩素、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムを除く多くのミネラルが数倍から数万倍含まれています。とくにカリウムや鉄分が豊富です。 これらのミネラルは、長い年月をかけて陸上から海に流れ出し、海水中に蓄えられた成分です。また、海藻には微生物を殖やす多糖類(海藻デンプンや食物繊維など)も豊富に含まれています。 海藻を農地の上に置くことで、数カ月は農地に不足しているミネラルを持続的に供給します。また、酵素の働きを通じて微生物や作物の活動を活性化すると考えられます。海藻を使って作物の味がよくなったり、 生育がよくなるのはそのためでしょう。 実際、ホウレンソウは臭素臭がなく糖度が高くなり、タマネギは生でスライスしたものを水にさらさなくても食べられ、ピーマンはパプリカのように肉厚になって甘みが増すなどの効果があります。イチゴは傷がつきにくく、ピーマンやキュウリなどは成り疲れしにくくなります。 大分県杵築市の神鳥柚子園では、海藻だけを肥料にすることでハモグリガの幼虫とアブラムシがつきにくくなり、ユズの無農薬・無施肥栽培が可能になりました。チッソ成分などは周辺の山の腐葉土由来の養分が、土壌表面に近い地下水を通じて供給されていると推測しています。 無施肥で海藻肥料を使った圃場と使わなかった圃場の同じ直径の青ユズ(若い果実)を比較すると、海藻肥料を使ったユズは緑の皮の厚さが二倍以上ありました。海藻を使った黄ユズ(熟れた果実)では、直径が一・五〜二倍の大きさになり、白い皮の部分を含めて、苦みが少なく、香りがよくなりました。成分分析をしてみると、抗酸化力、 糖度、ビタミンCの値が、慣行栽培のユズよりだいぶ高くなりました(右表参照)。 その結果、これまでのユズにはない味と香りがすると評価され、東京の一流のレストランなど一〇店舗以上から続々注文が入るようになりました。多くがデザートの材料に使われています。今年の四月にはシェフのグループがユズ園の見学に来たほどです。さらに、無農薬・海藻肥料で育てたユズの新芽の注文もありました。新たな食材に使うそうです。 海藻はもちろん自分で調達できます。 海岸に打ち上げられた海藻は無主物(所有者のない物)ですので、これを拾うことは漁業調整規則に抵触しません。しかし、漁業者や地住民とトラブルを起こさないよう、海岸清掃で海藻がゴミとして扱われている地域で拾うのが無難です。 あるいは、地域の人たちの散歩が多い夕方などに海藻を拾いながら挨拶して様子をうかがえば、問題なく拾える地域かどうかわかります。 海藻は乾燥させると一〇分の一の重さになるので、満潮線 (波によって砂浜が濡れる範囲)より上の砂や消波プロックの上に重ならないように干しておけば軽くなり、運搬もラクです。邪魔にならない場所であれば、翌日回収するのがよいでしょう。 すぐに使うのであれば、そのまま軽トラの荷台に載せて運搬し、農地にまきます。! 保管する場合は乾燥させ、ビニール袋に入れておけばOKです。 (福岡県新宮町·海藻研究所)
0次産業による離島経済の活性化
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